「カラヤンの音楽はコカ・コーラ」と言ったのは、リハーサルの厳しさと、禅問答のような語りで有名だった指揮者セルジュ・チェリビダッケです。カラヤンの音楽は形だけ、商業主義的で音楽の本質を捉えられていないという趣旨の批判として、インタビューで言い放ったといわれます。
当時、クラシック音楽の本質は「売れれば良い!」の大量生産大量消費の対極にありました。商業主義の象徴としてコカ・コーラを比喩的に使い、カラヤンを批判したのです。
チェリビダッケは、歯に衣着せぬ毒舌ぶりが有名な指揮者で、レコーディングを頑なに否定していました。レコード録音を盛んに行ったカラヤンとは対照的です。
2年ほど前に、指揮者の大友直人さんが次のようなことを語っておられました。
「演奏家としてリハーサルと本番に全力で向かい、それだけでいっぱいになってしまう。その先を考える余力を持つことがなかなかできない。『満席のお客様に観ていただいてこそ価値がある』。公演の採算を考えても当たり前のことです。あらゆるところに気を配り、アイデアを出す。本来は、そうでなくてはいけないのです。」
クラシック音楽というのは、今では「クラシック(古典的)」ですが、作られた当時は「最新の」音楽だったともいえます。たとえば、チャイコフスキーは「くるみ割り人形」で新楽器チェレスタを起用しました。発表するまで、誰にもバレないように、こっそりと楽器を購入して作ったそうで、その姿を想像するだけでも笑ってしまいます。
コカ・コーラを片手に、気軽にクラシック音楽を聴いてもよいのではないかと思うのは、私だけではないと思います。